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水戸地方裁判所土浦支部 昭和28年(ワ)70号 判決

茨城県土浦市荒川沖九百五番地

原告

鶴町運衛

右訴訟代理人弁護士

小松崎広嗣

右復代理人弁護士

田中道之助

東京都

被告

右代表者法務大臣

加藤鐐五郎

右指定代理人

横山茂晴

脇昭二

畑尚夫

木村寛

吉田常章

右当事者間の昭和二十八年(ワ)第七〇号抵当権設定登記の抹消登記手続請求事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告は原告に対し別紙目録記載の宅地に対する水戸地方法務局土浦支局昭和二十七年十一月二十五日受附第三三二三号を以て債権者国税庁の為昭和二十七年十一月二十二日附酒税納税担保提供に因る債権額金三十四万二千円の抵当権設定登記の抹消登記手続を為せ、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として別紙目録記載の宅地は原告の所有に属するところ、原告は昭和二十七年十一月十日訴外昭華酒造株式会社が昭和二十七酒造年度(昭和二十七年十月一日から昭和二十八年九月三十日迄の期間)の製造にかかる酒類を移出した際被告に対して納付する基本税及び加算税(以下之等を単に税金と称する)のうち金三十四万二千円の担保として右宅地を被告に提供し、被告は同月二十五日同宅地に付き請求趣旨掲記の如き抵当権設定登記を終了した。然るに昭華酒造株式会社は右酒造年度において製造し、所管土浦税務署に移出申告した焼ちゆう十五石に対する税金二十八万三千四百七十円については既に納付し、更に昭和二十八年四月八日訴外下総酒造株式会社に対し同酒造年度に製造し同税務署の検定を受けた焼ちゆう十四石を代金八万四千円で売り渡し、その際右焼ちゆう移出に対する税金については同会社との間において買受人たる同会社が之を境税務署に納付することの契約を締結し土浦税務署においても当時之を承認したものであり、しかも此の税金一石当り金一万九千円計二十六万六千円はその頃下総酒造株式会社から境税務署に納付せられた結果、昭華酒造株式会社が前記酒造年度において製造移出した焼ちゆうに対して納付した税金は以上の二口で合計金五十四万九千四百七十円となり、本件抵当権を以て担保せられる税金三十四万二千円を超過したから被担保債権は消滅に帰し、その結果右抵当権も又その目的を達して消滅した。そこで原告はその後被告に対し本件抵当権設定登記の抹消登記手続を請求したところ、被告は昭華酒造株式会社が酒類(雑酒)の密造を為し、それに対する逋脱税を納付しないとの理由で応じないので、之が履行を求める為本訴請求に及んだと述べ、なお被担保債権たる税金は当時現実に発生していたものではなく再来発生すべきものではあつたが確定していたのであるから、之に設定せられた本件抵当権は根抵当の性質を有するものではないと附け加え、立証として甲第一乃至第四号証及び甲第五号証の一乃至四を提出し、証人白井甲子郎、同色川義雄及び原告本人の各尋問を求め、乙第一号証の成立を認め之を利益に援用した。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の事実中その主張の宅地が原告の所有に属すること、被告が原告主張の日原告から訴外昭華酒造株式会社の為昭和二十七酒造年度におけるその主張税金の担保として右宅地の提供を受け、同宅地に付き原告主張通りの抵当権設定登記を終了したこと及び昭華酒造株式会社が原告主張の焼ちゆう十五石に対する税金二十八万三千四百七十円を納付したことは認めるが、右抵当権がその目的を達して消滅したとの点その他以下の主張に反する事実は総べて否認する。すなわち本件抵当権によつて担保せられる債権額は金三十四万二千円であるが、之は担保の限度を定めたもの換言すれば根抵当の性質を有し、右抵当権は昭華酒造株式会社が前記酒造年度中に製造した酒類移出の際納付すべき税金全額に及ぶものであつて其の一部を担保するものではない。元来債権確保の為には被担保債権額に相当した物を提供させるに越したことはないが、かくては酒造業者に酷に失し且つその必要性にも乏しいので、酒造免許の種類や事業の経歴等により一カ月分又は三カ月分の製造見込石数に対する税金相当の担保物を提供させているのが実情であり、本件も之にならつて三カ月分に相当する前記金額を算出し、之に対する担保物として本件宅地を提供させたものである。而して昭華酒造株式会社は前記酒造年度において焼ちゆう乙類二十七石五斗三升五合を製造し此のうち所管土浦税務署に移出申告した十五石に対する税金二十八万三千四百七十円を納付したことは前記の通りであるけれども、残余のうち六石八斗八升については移出申告をせず、従つて之に対する税金を納付していなかつたところ、被告はその後之を発見して金二十一万四千八百五十円の課税を決定し、昭和二十八年八月十四日同会社に対し右税金を同月三十日迄に納付するよう告知したが、同会社において未だ之を履行していないから、税金は完納されていない。又昭華酒造株式会社が訴外下総酒造株式会社に売り渡した焼ちゆうは十二石九升五合であつて、之は旧酒税法の規定に依り政府の承認を受けて移出したもので課税の対象になつていない。すなわち昭華酒造株式会社は此の分については納税義務を負担せず、かえつて下総酒造株式会社において新たに之を移出する際税金を納付しなければならないのであつて同会社が昭華酒造株式会社に代つてその税金を納付するわけではない。以上の通りであつて被担保債権たる税金は依然残存しているから、之が消滅したことを理由として本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求には応じ難いと述べ、立証として乙第一号証を提出し、証人榎戸平八の尋問を求め、甲第一号証、甲第三号証及び甲第五号証の一乃至四の成立を認め、甲第一号証については更に原本の存在をも認め、その余の甲号各証は不知と述べた。

理由

別紙目録記載の宅地が原告の所有に属すること、原告が昭和二十七年十一月十日訴外昭華酒造株式会社において昭和二十七酒造年度(昭和二十七年十月一日から昭和二十八年九月三十日迄の期間)の製造にかかる酒類を移出した際被告に対して納付する基本税及び加算税(以下之等を単に税金と称する)のうち金三十四万二千円の担保として右宅地を被告に提供し、被告が原告主張通りの抵当権設定登記を経了したこと並びに昭華酒造株式会社が原告主張の焼ちゆう十五石に対する税金二十八万三千四百七十円を納付したことは当事者間に争なく、証人色川義雄の証言に依り成立を認め得る甲第四号証、証人色川義雄及び同榎戸平八の各証言に依れば、昭華酒造株式会社は政府の承認を受けて昭和二十八年四月八日訴外下総酒造株式会社との間において前記酒造年度に製造した焼ちゆう十四石を代金八万四千円で同会社に売り渡す旨の売買契約を締結したことを認め得るところ、原告は昭華酒造株式会社はその頃右契約通りの履行を為したと主張するけれども之を確認するに足る証拠がないから、被告の自白する十二石九升五合の範囲で履行が為されたものと認定する。然るところ原告は之に対する税金一石当り金一万九千円の割合による二十三万八千七百九十五円については昭華酒造株式会社において土浦税務署の承認を受け事実掲示の如く下総酒造株式会社をして之を境税務署に代納せしめた結果、之と前記焼ちゆう十五石に対して納付せられた税金との合計額が本件抵当権を以て担保せられる税金三十四万二千円を超過したから、右被担保債権は消滅に帰し、本件抵当権も又その目的を達して消滅したと主張するのであるが、此の趣旨に副うような証人白井甲子郎及び同色川義雄の各証言部分並びに原告本人尋問の結果は証人榎戸平八の証言に照し容易に信用し難く、他に之を認めるに足る確証はない。かえつて成立に争ない乙第一号証及び甲第三号証並びに証人榎戸平八の証言によれば昭華酒造株式会社は昭和二十八年法律第六号による改正前の酒税法第三十八条第二項同法施行規則第二十五条第一項に従い所管土浦税務署の承認を受けて右焼ちゆうを移出したものであつて、之については税金を徴収せられない事になつていたこと、本件抵当権は酒造着手前に設定せられたものであつて、当時被担保債権は具体的には確定して居なかつたものであり、従つて此の衝に当つた土浦税務署は国税庁通達に基き昭華酒造株式会社に対し前記酒造年度において容認した造酒石数に対する税金の十一分の三余に相当する担保物権の提供を求め、原告は之を熟知の上同会社の為前記宅地に付き本件抵当権を設定したこと並びに昭華酒造株式会社は前記酒造年度において製造移出した焼ちゆう六石八斗八升に付き移出申告をしなかつた為、之に対して金二十一万四千八百五十円の課税決定を受け、被告主張通りの納付告知に接したが現在に至るもその履行をしていないことが認められる。そうするとたとえ下総酒造株式会社がその後右焼ちゆうを移出する際之に対する税金を納付したとしても、之を以て昭華酒造株式会社に課せられた税金を代納したことにはならないから、その納税の有無を判断する迄もなく原告の代納に関する主張は失当であり、又本件抵当権は根抵当なることが明示せられていないけれども、前記認定事実に徴すると根抵当の性質を有することが明らかであつて、被告主張の通り前記酒造年度中に製造せられた酒類移出の際納付すべき税金全部に及ぶものと解せられ、しかも同酒造年度の税金が滞納になつているから被担保債権が消滅したとの原告の主張も又採用できない。然らば本件抵当権は依然存続しているから、之が消滅したことを前提とする原告の本訴請求は理由がないので之を棄却し、訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木盛一郎)

目録

茨城県土浦市荒川沖字馬建場八百二十番

一、宅地四百二十坪

同 県同市荒川沖字馬建場八百二十四番の四

一、宅地四百二十四坪二合五勺

同 県同市荒川沖字大道東六百四十三番

一、宅地四百二十八坪

同 県同市荒川沖字大道東六百五十二番の一

一、宅地五百六十九坪九合三勺 以上

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